AISASとは?インターネット時代の消費者行動プロセスを完全理解する
なぜ今、AISASを知るべきか?:AIDMAからの決定的な変化
AISAS(アイサス)とは、日本の広告代理店である株式会社電通が2004年に提唱した消費者行動モデルです。インターネットが普及し始めた時代に、それまでの代表的なモデルであった「AIDMA(アイドマ)」に代わる新しい行動プロセスとして発表されました。
従来のAIDMAモデルでは、消費者の行動は「購入(Action)」で終わっていました。しかし、AISASモデルでは、インターネットによって「検索(Search)」と「情報共有(Share)」という2つの新たな行動が加わった点が決定的に重要です。
| モデル名 | 構成要素 | 特徴 |
| AIDMA | Attention → Interest → Desire → Memory → Action | マスメディア時代の代表的なモデル。記憶(Memory)を重視。 |
| AISAS | Attention → Interest → Search → Action → Share | インターネット時代のモデル。検索と共有が組み込まれた。 |
AISASを構成する5つのステップを深掘り解説
AISASは、消費者が商品やサービスを認知してから購入し、さらに他者へ共有するまでの5つのプロセスを指します。
1. 認知(Attention):まず「知る」ことからすべてが始まる
- 意味合い: CM、広告、SNS投稿、Web検索など、何らかのきっかけで商品やサービスの存在を知覚(認知)する段階。
- マーケティング施策: 認知度を最大化するためのマス広告、ディスプレイ広告、SNSでの話題化などが該当します。
2. 関心(Interest):興味を持ってもらうためのフック作り
- 意味合い: 認知した情報に対して「もっと知りたい」「自分に関係があるかもしれない」と興味・関心を抱く段階。
- マーケティング施策: ターゲット層のペルソナに基づいたキャッチコピーやベネフィット訴求が重要になります。
3. 検索(Search):能動的に情報を探し始めるインターネット時代のコア行動
- 意味合い: 興味を持った後、Web検索エンジンやSNSの検索機能を使って、商品・サービスの詳細情報、評判、口コミを能動的に集める段階。
- マーケティング施策: SEO対策(検索エンジン最適化)、レビューサイトでの評判管理、指名検索キーワードでの上位表示が極めて重要です。このプロセスがAIDMAとの大きな違いです。
4. 行動(Action):実際に購入・申し込みに至る最終フェーズ
- 意味合い: 検索によって得た情報に納得し、実際に購入したり、サービスに申し込んだりする段階。
- マーケティング施策: 購入までの導線設計(LPO)、決済手段の多様化、限定特典など、コンバージョン(CV)を高めるための施策が中心になります。
5. 共有(Share):購入後の体験を拡散するバイラルマーケティングの源泉
- 意味合い: 購入・利用した体験を、SNS、ブログ、口コミサイトなどを通じて他者へ共有・発信する段階。
- マーケティング施策: レビュー投稿キャンペーン、SNSでのハッシュタグ推奨、顧客コミュニティの形成など、ポジティブなUGC(User Generated Content)を発生させる仕組み作りが求められます。
【実務フレーム化】AISASをマーケティング戦略に落とし込む具体的な実行ステップ
AISASを単なる概念で終わらせず、貴社のマーケティング活動に組み込むための実務フローを提案します。
ステップ1:各フェーズの「KPI設定」と「施策の連動性」を明確にする
AISASの各ステップは独立しているわけではなく、前のステップの結果が次のステップに影響を与えます。実務では、この連動性を意識し、各フェーズのKPI(重要業績評価指標)を設定することが不可欠です。
| AISASのステップ | 実務で見るべきKPIの例 | 主な施策の例 |
| Attention | 広告のインプレッション数、リーチ数、ユニークユーザー数 | マス広告、Web広告(認知目的)、PR発表 |
| Interest | サイトのPV数、滞在時間、クリック率(CTR)、直帰率 | コンテンツマーケティング、LPの質、動画広告 |
| Search | 指名検索数、SEOキーワード順位、口コミサイトの言及数 | SEO、リスティング広告、ブランドリフト調査 |
| Action | コンバージョン率(CVR)、売上高、顧客獲得単価(CPA) | LPO、EFO(入力フォーム最適化)、セールスプロモーション |
| Share | UGC数、SNSのエンゲージメント率、紹介率 | レビューキャンペーン、ロイヤリティプログラム、コミュニティ運営 |
ステップ2:Search(検索)フェーズを勝ち抜くSEO戦略
AISASモデルの核心である「Search」フェーズを制することが、現代のデジタルマーケティング成功の鍵となります。
1. 顕在層(今すぐ客)に向けた指名検索対策
消費者が商品名や企業名で検索する「指名検索」のボリュームを増加させる施策が最も重要です。
- 施策: ブランド名でのリスティング広告出稿、WebサイトのSSL化・表示速度改善(信頼性向上)、ブランドイメージを統一した情報発信。
- 指標: Google Search Consoleでの指名キーワードの表示回数・クリック率。
2. 潜在層(比較検討客)に向けた関連キーワード対策
「(商品名)口コミ」「(商品名)評判」「(商品名)比較」といった、購入直前のユーザーが検索するキーワード群(スモールキーワード)での上位表示を目指します。
- 施策: 競合比較記事の作成、お客様の声・事例コンテンツの充実、第三者機関による評価の掲載。
- 指標: 比較キーワードでの検索順位、それらの記事を経由したCVR。
ステップ3:Share(共有)を促すためのロイヤリティ施策
購入後の満足度を高め、ポジティブな共有を促すためのCRM(顧客関係管理)とロイヤリティプログラムの設計は必須です。
- 購入後の体験価値最大化: 商品に同梱する手書きのメッセージカード、質の高いアフターサポート(FAQの充実、迅速な対応)。
- 共有の「インセンティブ設計」: 共有したユーザーへのクーポン付与やポイント還元、限定コミュニティへの招待など、金銭的・非金銭的なメリットを提供します。
【一次情報に基づいた事例】AISASモデルの成功事例分析
AISASモデルは提唱されてから時間が経っていますが、その本質的な構造は現代でも多くの企業の成功を支えています。信頼性を高めるため、公的な情報ソースや大手企業の一次情報に基づいて事例を紹介します。
事例1:ユニクロ(ファーストリテイリング)によるSNSを活用したUGC創出
ユニクロは、AISASの「Share」フェーズを戦略的に利用し、販売促進に成功している代表例です。特に、特定のハッシュタグや企画を通じて、消費者自身が商品(特に着こなし)をSNSで共有するUGC(User Generated Content)を促しています。
- Attention & Interest: 新商品のキャンペーンやコラボレーション情報で認知・関心を引く。
- Search & Action: 興味を持った消費者が「ユニクロ (商品名) レビュー」などで検索し、他者の着用画像や感想を確認し、購入に至る。
- Share(成功の鍵):
- 2021年: 「ユニクロUT」の発売時に、消費者がUTを着用した写真をSNSに投稿するハッシュタグキャンペーンを展開。
- 成果: ユーザーが自発的にコーディネートを投稿し合うことで、商品情報が信頼性の高い友人・知人ベースで拡散され、広告費をかけずに新たな購買者層(Attention)への訴求につながるという、AISASのサイクルを加速させています。
事例2:大手グルメサイトによる「検索」から「行動」への最適化
大手グルメサイトや旅行サイトは、AISASの「Search」から「Action」への導線最適化を徹底している事例です。
- Search(圧倒的な情報の網羅性):
- 消費者が「(地名) 居酒屋」「(料理名) おすすめ」など、非常に具体的な検索キーワードでサイトに流入。
- サイト側は、口コミ数、評価点、価格帯、アクセス、空席情報など、消費者の意思決定に必要な情報を網羅的に提供することで、他サイトへの離脱を防ぎます。
- Action(予約・購買への即時性):
- 検索結果ページから、「即時予約」「オンライン決済」へのボタンを配置。
- 「在庫残りわずか」「この時間帯は混雑」などの緊急性(Urgancy)を示す情報を付加し、Actionへの心理的障壁を下げる工夫を施しています。
AISASの限界と現代マーケティングモデルとの比較
AISASの弱点と進化の必要性:ソーシャルメディア時代の到来
AISASはインターネット普及初期のモデルとして非常に優れていますが、ソーシャルメディアが主流となった現代においては、いくつかの弱点も指摘されています。
- 受動的な「Search」の定義: 現代では、Google検索だけでなく、Instagram、X(旧Twitter)、TikTokなどのソーシャルメディア内での検索や、フィードに流れてきた情報(受動的な認知)から購入に至るケースが増えており、「Search」の定義が広がりを見せています。
- 「LTV」の視点の欠如: AISASは一過性の購入(Action)でモデルの主要部分が終わってしまい、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を高めるための継続的な関係構築の視点が希薄です。
現代の消費行動モデル(SIPS, DECAXなど)との比較
AISASは、現代の複雑な行動プロセスを説明するために生まれた他のフレームワークと比較することで、その限界と役割が明確になります。
| モデル名 | 提唱者 | 特徴的なプロセス | AISASからの進化点 |
| SIPS | 佐藤尚之(コミュニケーション・デザイナー) | Sympathize(共感) | SNS時代の共感と参加を重視。認知(Attention)の前に「共感」を置くことで、拡散の起点を示す。 |
| DECAX | 株式会社電通デジタル | Discovery(発見)、Engage(関係構築) | コンテンツマーケティングを前提。発見から購入までの間に継続的な関係構築(Engage)を組み込むことでLTVを意識。 |
| AISCEAS | 株式会社アンヴィコミュニケーションズ | Comparison(比較)、Examination(検討) | 「Search」を分解し、比較と検討を明確化。情報過多な時代のユーザーの熟考プロセスを反映。 |
【結論】 AISASは、マーケティング戦略を考える上で最もシンプルで分かりやすい土台となります。しかし、実務では、SIPSやDECAXのようなソーシャルメディアやコンテンツマーケティングに特化したモデルを組み合わせて適用することで、より精度の高い戦略設計が可能になります。
まとめ:AISASは現代のマーケターが持つべき基本戦略ツール
本記事では、電通が提唱した消費者行動モデル「AISAS」について、その定義から、実務への応用フレームワーク、一次情報に基づいた事例、そして他のモデルとの比較を通じて深掘りしてきました。
AISASモデルの核心は、インターネット時代の消費者が持つ「能動的な検索(Search)」と「体験の共有(Share)」という2つの行動をマーケティングプロセスに組み込んだ点にあります。この5つのステップを意識し、各フェーズで適切なKPIと施策を連動させることこそ、貴社のデジタルマーケティングを成功に導く鍵となります。
「Search」を制するためのSEO戦略、「Share」を加速させるロイヤリティプログラムなど、貴社のマーケティング課題は多岐にわたるでしょう。
AISASモデルを貴社のビジネスに最適化し、結果につながる具体的なマーケティング戦略を策定したいとお考えなら、ぜひ一度、当社の専門チームにご相談ください。貴社の事業特性と顧客行動に合わせた実践的なフレームワークをご提案し、売上最大化を徹底的にサポートいたします。