**AISCEAS(アイセアス)**は、インターネット時代の消費者行動モデルとして2005年にアンヴィコミュニケーションズの望野 和美氏によって提唱されました。
これは、商品やサービスを認知してから購入し、さらにその後の行動に至るまでのプロセスを7つのステップに分解して捉えるフレームワークです。
各ステップの頭文字から名付けられています。
- Attention(注意・認知)
- Interest(興味・関心)
- Search(検索)
- Comparison(比較)
- Examination(検討)
- Action(行動)
- Share(共有)
このモデルの最大の特徴は、インターネットの普及により消費者が「能動的に情報収集する」ようになった点と、「購入後にその情報を共有する」ようになった点を明確に捉えていることです。
A:Attention(注意・認知)
まずは知ってもらうための「出会い」 この段階は、消費者が商品やサービスの存在を初めて知るフェーズです。 テレビCMや雑誌広告といった従来のマスメディアに加え、Web広告、SNS、インフルエンサーの投稿など、現代では多様なタッチポイントが存在します。この段階では、いかにしてターゲットに「見つけてもらうか」が重要になります。
I:Interest(興味・関心)
「もっと知りたい」と思わせる仕掛け Attentionの段階で認知した商品に対し、消費者が「もう少し詳しく知りたい」と感じる段階です。 広告やWebサイトのキャッチコピー、コンテンツの内容が、ユーザーの興味をどれだけ引きつけられるかが鍵となります。この段階で興味を惹きつけられなければ、次のステップに進むことはありません。
S:Search(検索)
能動的な情報収集の第一歩 興味を持った消費者が、自らインターネットで情報を探し始めるフェーズです。 「商品名+口コミ」「サービス名+評判」といったキーワードで検索したり、SNSでハッシュタグ検索をしたりします。この段階では、企業の公式サイトだけでなく、口コミサイトやSNSでの評判も重要な情報源となります。
C:Comparison(比較)
競合との優位性を際立たせる 消費者が、検索で見つけた複数の商品やサービスを比較する段階です。 価格、機能、デザイン、サービス内容など、様々な側面から他社製品と比較検討します。自社のWebサイトで競合との比較表を提示するなど、ユーザーが比較しやすい情報を提供することが有効です。
E:Examination(検討)
購入を後押しする「決定打」 比較検討した上で、購入するかどうかを最終的に判断する段階です。 このフェーズでは、商品のレビューや実際に利用している人の声、無料トライアルやサンプル品などが「決定打」になります。消費者にとっての「安心感」や「信頼性」をいかに提供できるかが重要です。
A:Action(行動)
購入・契約という最終的なゴール 検討の結果、消費者が実際に商品を購入したり、サービスを契約したりする段階です。 このプロセスをスムーズに進めるためには、ECサイトであれば購入までのステップを簡潔にする、申し込みフォームの入力を簡単にするといった、ユーザーの行動を妨げない工夫が求められます。
S:Share(共有)
新たな「Attention」を生む無限ループ 購入や利用を終えた消費者が、その体験をSNSやブログ、口コミサイトなどで発信する段階です。 この共有された情報が、また新たな消費者の「Attention」を生み出すきっかけとなります。良い口コミは強力なプロモーションになり、逆に悪い口コミは大きな機会損失に繋がるため、この段階での顧客満足度は極めて重要です。
AISCEASとAIDMA・AISASとの違い
なぜAISCEASが重要なのか?
AISCEASは、時代の流れとともに変化した消費者の購買行動を反映したモデルです。このセクションでは、旧来の代表的なモデルと比較することで、AISCEASの重要性を明確にしていきます。
AIDMA(アイドマ):マスメディア時代の古典的なモデル
AIDMAは「Attention→Interest→Desire→Memory→Action」の頭文字を取ったもので、テレビや新聞、雑誌が主な情報源だった時代に提唱されました。
Desire(欲求):商品が欲しいという気持ちが芽生える。
Memory(記憶):商品のことを覚えておく。 このモデルでは、消費者が受動的に情報を受け取り、その情報を記憶することで購買へと至るプロセスを描いています。インターネットで自ら情報を検索したり、SNSで他者と共有したりする行動は想定されていません。
AISAS(アイサス):インターネット時代の萌芽を捉えたモデル
AISASは「Attention→Interest→Search→Action→Share」の頭文字を取ったもので、電通によって提唱されました。
AIDMAの「Desire」と「Memory」が「Search」と「Share」に置き換わり、インターネット時代の消費者行動を初めてモデル化した点に大きな意義があります。
しかし、AISASには「比較」と「検討」のプロセスが明確に定義されていません。
AISCEAS:より複雑な消費者行動を捉える決定版
AISCEASは、AISASの「Search」と「Action」の間に「Comparison(比較)」と「Examination(検討)」のステップを追加することで、ECサイトの普及によって複雑化した消費者の行動をより詳細に捉えています。
例えば、多くのECサイトでは「複数の商品を比較検討する機能」や「レビューを参考にする機能」が備わっています。
これらの行動は、まさにAISCEASの「C」と「E」にあたります。 つまり、AISCEASは**「多様な情報に溢れる現代において、消費者が慎重に意思決定するプロセス」**を最も的確に表しているモデルと言えるでしょう。
AISCEASをマーケティング戦略に活かす具体的な施策 AISCEASの各ステップを理解するだけでは意味がありません。
ここからは、各段階でどのようなマーケティング施策が有効なのか、具体的な事例を交えながら解説します。
【事例紹介】大手ECサイト「Amazon」に学ぶAISCEASの活用術
ECサイト運営の成功事例として、ここでは「Amazon」の施策をAISCEASに当てはめて考えてみましょう。 Amazonは膨大な数の商品を扱い、消費者行動の各ステップに合わせた多様な施策を展開することで、顧客の購買を強力に後押ししています。
① Attention(注意)
Amazonプライムデーで一気に認知拡大 Amazonは、年に数回開催される**「プライムデー」**で、テレビCMやWeb広告を大々的に展開します。 「年に一度のビッグセール」という特別感を演出し、多くの消費者のAttentionを引きつけ、認知度を高めます。また、SNSでも多くのインフルエンサーやメディアが情報を共有し、さらに広範囲に認知を拡大します。
② Interest(興味)
レコメンド機能でニーズを喚起 ユーザーが一度検索した商品や、閲覧履歴に基づいたレコメンド機能は、Amazonの強力な武器です。 「あなたへのおすすめ」として表示される関連商品が、潜在的な興味を掘り起こし、「こんな商品もあったのか!」という新たな発見を生み出します。
③ Search(検索)
サジェスト機能と豊富な商品情報 Amazonの検索窓にキーワードを入力すると、関連するキーワードが自動で表示されるサジェスト機能は、ユーザーの検索を効率化します。 また、商品ページにはメーカー提供の基本情報だけでなく、仕様、他ユーザーからのQ&Aなど、詳細な情報が網羅されており、ユーザーは迷うことなく必要な情報を手に入れられます。
④ Comparison(比較)
「この商品と比較する」機能で決断を促す 商品ページには、類似商品とのスペックを比較できる**「この商品と比較する」**という機能が備わっています。 価格、サイズ、機能などを一目で確認できるため、ユーザーはわざわざ別のサイトに移動して情報を探す手間が省けます。これにより、ユーザーはサイト内でスムーズに比較検討を進められます。
⑤ Examination(検討)
レビューと評価が信頼を構築 Amazonで最も重要な要素の一つが、星評価やレビューです。 膨大な数のレビューは、購入を検討しているユーザーにとって信頼性の高い情報源となります。特に、写真付きのレビューや、購入者が質問に答えるQ&A機能は、ユーザーの不安を取り除き、最終的な決断を強く後押しします。
⑥ Action(行動)
「ワンクリック購入」で心理的ハードルを下げる Amazonプライム会員は、配送先や決済情報が登録済みのため、「今すぐ買う」ボタンをワンクリックするだけで購入が完了します。 この圧倒的な手軽さは、購入時の心理的なハードルを極限まで下げ、ユーザーの行動を促します。
⑦ Share(共有)
アフィリエイト機能でさらなる拡散を狙う Amazonは、購入者が商品レビューを投稿できるだけでなく、Amazonアソシエイトというアフィリエイトプログラムも提供しています。 これにより、商品を紹介して収益を得たいブロガーやインフルエンサーが自発的に商品を宣伝する仕組みが構築されています。これは、Amazonにとって広告費をかけずに新たな顧客を獲得できる強力な「共有」の仕組みと言えるでしょう。
このように、AmazonはAISCEASの各ステップを網羅した施策をシームレスに展開することで、圧倒的な顧客体験を提供し、強固なECプラットフォームを築き上げています。
AISCEASを実践する上での課題と解決策
AISCEASモデルは非常に有用ですが、実際に運用する際にはいくつかの課題に直面することがあります。
課題1:各フェーズの「ボトルネック」が見つけにくい
AISCEASの各ステップで、顧客が離脱しているポイント(ボトルネック)を正確に把握するのは容易ではありません。 「検索」段階で自社サイトが見つからない 「比較」段階で競合に劣ると判断される 「検討」段階でレビューが悪く購入に至らない といった具体的な原因を特定できなければ、適切な改善策を打てません。
【解決策】 Webサイトのアクセス解析ツール(Google Analyticsなど)やヒートマップツールを活用して、ユーザーの行動データを詳細に分析しましょう。 どのページで離脱が多いか、どの情報がよく読まれているかを可視化することで、課題の特定に繋がります。
課題2:購入後の「Share(共有)」を促す仕組みがない
SNSや口コミサイトでの「共有」は、次の顧客獲得に繋がる重要なステップですが、多くの企業は「Action」で満足してしまいがちです。
【解決策】
- レビュー投稿キャンペーンの実施: レビューを書いてくれたユーザーにクーポンやポイントを付与する。
- SNSハッシュタグキャンペーン: 指定のハッシュタグをつけて投稿してくれたユーザーを公式アカウントで紹介する。
- 購入者限定コミュニティの運営: 購入者同士が情報交換できる場を提供し、ロイヤルティを高める。
これらの施策によって、顧客が自発的に情報を共有したくなる環境を整えましょう。
顧客の購買行動を深く理解し、成果に繋がるマーケティングを AISCEASは、現代の消費者の複雑な購買行動を体系的に理解するための強力なフレームワークです。
各ステップを深く掘り下げ、自社のマーケティング施策に当てはめて考えることで、これまで見過ごしていた課題や、新たな改善点が見えてくるはずです。
もし、この記事を読んで、「自社のECサイトのアクセス解析方法がわからない」「AISCEASをどう活用すれば良いかわからない」といったお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度私たちにご相談ください。
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