「売上を伸ばしたい」「競合に差をつけたい」。そう考えるマーケターや経営者にとって、自社の「勝ち筋」を見つけることは最重要課題です。
場当たり的な施策を繰り返すだけでは、時間と資源を浪費するばかり。そこで不可欠になるのが、戦略的なフレームワークであるSTP分析です。
STP分析は、市場全体を俯瞰し、自社が狙うべき顧客層を絞り込み、競合との「決定的な違い」を明確にするための強力なツールです。本記事では、STP分析の基本から、具体的な手順、そして日本企業の成功事例までを徹底解説します。
この記事を読めば、あなたはSTP分析を単なる知識としてではなく、具体的な戦略策定プロセスとして理解し、すぐに自社のマーケティングに応用できるようになるでしょう。
STP分析とは?なぜ必要か?〜顧客と自社の「立ち位置」を明確にする戦略ツール
STP分析とは、マーケティング戦略の大家であるフィリップ・コトラーが提唱したフレームワークで、以下の3つの要素の頭文字をとったものです。
| 要素 | 意味 | 目的 |
| Segmentation | セグメンテーション(市場細分化) | 市場を顧客ニーズや特性で細かく分ける |
| Targeting | ターゲティング(ターゲット設定) | 分けた市場の中から、自社が狙うべきセグメントを決める |
| Positioning | ポジショニング(立ち位置明確化) | ターゲット顧客に対し、競合と比べて優位な独自の価値を定義する |
このプロセスを経ることで、「誰に(Target)」「何を(Positioning)」「どのように売るか(Segmentingが示す市場特性)」という戦略の核が明確になります。
STP分析は、限られた経営資源を最も効果の高い部分に集中投下し、競合との差別化を通じて競争優位性を確立するために不可欠なプロセスなのです。
STP分析が持つ「3つの目的」:資源の集中と競争優位性の確立
STP分析を深く理解するには、それが単なる手順ではなく、戦略を支える目的があることを知る必要があります。
- 経営資源の集中:市場全体ではなく、最も利益が見込める特定の顧客層に資源(人材、予算、時間)を集中させ、費用対効果を最大化します。
- ターゲット顧客の明確化:顧客像が明確になることで、その顧客に響く製品開発、価格設定、プロモーション(コミュニケーション)の一貫性が保たれます。
- 競争優位性の構築:競合他社にはない、顧客にとって魅力的な「独自の価値」を定義し、市場での「選ばれる理由」を作り上げます。
STP分析の「手順」を徹底解説!3つのフェーズを正確に理解する
STP分析は、S→T→Pの順序で論理的に進めることで、最大限の効果を発揮します。
Segmenting(セグメンテーション):市場を顧客ニーズで細分化する
セグメンテーションは、多様な顧客が存在する市場を、共通のニーズや特性を持つ集団(セグメント)に分ける作業です。
顧客を分けるための4つの主な変数
| 変数 | 内容(一言説明) | 具体例 |
| 地理的変数 | 国、地域、人口密度、気候などの地理的な要素 | 例:寒冷地向け防寒着、都市部向けシェアサイクルサービス |
| 人口統計的変数 | 年齢、性別、職業、所得、家族構成などの客観的な属性 | 例:シニア層向け健康食品、高所得者向け高級車 |
| 心理的変数 | ライフスタイル、価値観、パーソナリティなどの内面的な要素 | 例:環境意識の高い層向けサステナブル製品、アクティブ志向向け旅行プラン |
| 行動変数 | 購買頻度、利用シーン、ロイヤリティ、製品知識などの行動パターン | 例:ヘビーユーザー向けポイントプログラム、初心者向けサポート重視サービス |
これらの変数に基づき、細分化されたセグメントは、「測定可能である」「十分な市場規模がある」「到達可能である」「異質な反応を示す」という条件を満たしている必要があります。
Targeting(ターゲティング):狙うべき顧客層を決定する3つの視点
セグメンテーションで細分化された市場の中から、自社が最も勝てる、または魅力的なセグメントを決定するのがターゲティングです。この際、6R(市場規模、成長性、競合の状況、自社の優先順位、到達可能性、顧客の反応)などの評価軸が用いられます。
ターゲティングの3つのアプローチ
- 集中型マーケティング:特定のセグメントに経営資源を集中投下する戦略。ニッチ市場で強固な地位を築きたい場合に有効です。
- 差別型マーケティング:複数のセグメントをターゲットとし、それぞれのニーズに合わせて異なる製品やマーケティングミックスを提供します。
- 無差別型マーケティング:市場全体のニーズは似ているとみなし、単一の製品・サービスを市場全体に提供します。(現代では稀)
Positioning(ポジショニング):競合との違いを明確にする戦略マップ
ターゲティングで選んだ市場(顧客)に対し、競合との差別化ポイントを明確にし、顧客の心の中に独自の地位を築くことがポジショニングです。
ポジショニングを視覚化するのがポジショニングマップです。
- 軸の選定:顧客が商品を選ぶ際に重視するKBF(購買決定要因)となる2つの軸(例:価格 vs 品質、機能 vs デザイン)を選定します。
- 競合の配置:選定した軸に基づいて、主要な競合他社をマップ上に配置します。
- 自社の位置決定:競合が手薄な領域、かつターゲット顧客のニーズを満たす場所に、自社の「理想の立ち位置」を設定します。
この「理想の立ち位置」こそが、ターゲット顧客に伝えるべき独自の価値提案(Value Proposition)となるのです。
【事例で学ぶ】日本企業のSTP分析:成功パターンから自社への応用を考える
理論を実務に落とし込むには、成功事例の分析が最も有効です。ここでは、市場で圧倒的な地位を築いた日本企業のSTP分析の裏側を探ります。
事例1:ユニクロのSTP分析〜「高品質ベーシック」のポジショニング戦略
ユニクロ(株式会社ファーストリテイリング)は、STP分析の優れた成功例です。
| STP要素 | ユニクロの戦略的選択 |
| Segmentation | 地理的・人口統計的:グローバルから国内まで幅広く。特に老若男女、所得レベルを問わない「マス」。 |
| Targeting | 無差別型に近い差別型:特定のファッション嗜好ではなく、「日常生活で着る高品質で機能的なベーシックウェア」を求める層。 |
| Positioning | 軸:「高品質 vs 低価格」。競合がファッション性やトレンドに走る中、ユニクロは「究極のベーシック」に資源を集中。 |
差別化の根拠: ファーストリテイリングは、企画・生産・物流・販売を一貫して自社でコントロールするSPA(製造小売業)モデルを確立することで、「高品質でありながら低価格」という、通常は両立が難しいポジショニングを実現しています。
参考情報・引用元: 株式会社ファーストリテイリング IR情報「ファーストリテイリンググループについて」や各期決算資料より事業モデルを引用。 例:ファーストリテイリングのビジネスモデル
事例2:スターバックスのSTP分析〜「サードプレイス」の価値提供
スターバックスコーヒージャパン(以下、スターバックス)は、コーヒーという「モノ」ではなく、「体験」を売ることで成功しました。
| STP要素 | スターバックスの戦略的選択 |
| Segmentation | 心理的・行動的:コーヒーの「味」だけでなく、「雰囲気」「時間」「ステータス」に価値を見出す層。 |
| Targeting | 集中型:高感度な都市部のビジネス層や学生など、自宅(ファーストプレイス)でも職場/学校(セカンドプレイス)でもない、快適な「サードプレイス」を求める層。 |
| Positioning | 軸:「価格 vs 体験価値」。低価格で迅速なサービスを提供する競合カフェに対し、「高品質なコーヒー」「洗練された空間」「パーソナライズされたサービス」を組み合わせた高付加価値な体験を提供。 |
差別化の根拠: スターバックスは、高価格帯でありながら、顧客ロイヤルティを高めるために独自の会員プログラムや店舗体験を徹底しています。同社のニュースリリースやサステナビリティレポートには、単なるコーヒーチェーンではなく「人間的なつながり」や「地域社会への貢献」を重視する企業姿勢が明確に示されています。
参考情報・引用元: スターバックスコーヒージャパンの公式ニュースリリースやサステナビリティレポート。特に「サードプレイス」の概念は創業当初からの重要な価値提案として、各種IR情報や企業メッセージに記載されています。 例:スターバックス コーヒージャパン 企業情報(URLは2025年10月時点の最新情報を参照すること)
STP分析で「失敗」しないための注意点と成功のポイント
STP分析は強力ですが、分析しただけで終わったり、手順を誤ったりすると失敗に繋がります。
「セグメントの誤認」を避ける:顧客の真のニーズを見極める重要性
最もよくある失敗は、「自社が売りたいもの」を基準にセグメントを作ってしまうことです。
成功の鍵は、「顧客がなぜそれを買うのか」という真のニーズ(ジョブ・トゥ・ビー・ダン:JTBD)を起点にセグメントを切ることです。
- 失敗例:「年齢」という客観的な属性だけでセグメントを設定し、同じ年齢層でも多様なニーズを見落とす。
- 成功のポイント:「行動変数」や「心理的変数」を重視し、「安さで選ぶ層」「利便性で選ぶ層」「ブランドで選ぶ層」など、購買動機で市場を分ける。
データ収集と分析に時間をかけ、顧客の深層心理を捉えることが、精度の高いSTP分析の土台となります。
STPの先にある「マーケティングミックス(4P)」との連携
STP分析は、マーケティング戦略の「目標設定」フェーズです。この分析結果を実際の施策に落とし込むフェーズが、マーケティングミックス(4P/4C)です。
| 4P要素 | STP分析との連携 |
| Product (製品) | ポジショニングで定義した独自の価値を実現する機能や品質 |
| Price (価格) | ターゲティングした顧客が許容でき、かつポジショニングを裏付ける価格帯 |
| Place (流通) | ターゲット顧客が最もアクセスしやすい販売チャネルや場所 |
| Promotion (販促) | ターゲット顧客に響く、ポジショニングに一貫したメッセージと伝達手段 |
STP分析で導き出した「選ばれる理由」を、4Pの具体的な施策一つひとつに反映させることで、初めて戦略が一貫性を持ち、市場で機能するようになります。
まとめ:STP分析で「選ばれる理由」を作り、事業成長を加速させよう
STP分析は、単なるマーケティングの基礎知識ではありません。それは、激しい市場競争の中で、自社事業の「立ち位置」を定め、「勝ち筋」を明確にするための羅針盤です。
本記事で解説したように、
- 市場を顧客の真のニーズで細分化し(S)
- 最も魅力的な顧客層に資源を集中し(T)
- 競合にはない独自の価値を明確に定義する(P)
このプロセスを徹底することで、あなたの企業は「なんとなく売れている状態」から脱却し、「戦略的に選ばれる状態」を構築できます。
事業成長を加速させるには、戦略設計の精度が不可欠です。もし、自社のSTP分析に行き詰まりを感じている、あるいは、分析結果を具体的な施策(4P)に落とし込む段階で悩んでいるのであれば、専門家の知見を活用することが成功への近道です。
株式会社MIPでは、経営戦略と現場の実行力を結びつける、実践的なマーケティング戦略策定を支援しています。
貴社の「勝ち筋」を明確にし、競争優位性を確立したいとお考えなら、まずは一度、専門家にご相談ください。