「広告費をかけたのに、売上につながっているのかわからない」「自社の広告活動が、本当に利益を生み出しているのか知りたい」
多くの経営者やマーケターが抱えるこうした課題を解決するために、不可欠な指標が**ROAS(Return on Advertising Spend)**です。
ROASとは、投じた広告費用に対して、どれだけの売上が得られたかを示す指標であり、広告の費用対効果を測る上で最も重要なKPI(重要業績評価指標)の一つです。この数値を正しく理解し、活用することで、マーケティング活動の最適化と、売上の最大化が可能になります。
本記事では、ROASの基本的な計算方法から、具体的なベンチマーク、そしてROASを改善するための実践的な戦略まで、広告効果を飛躍的に高めるためのノウハウを徹底的に解説します。
1. ROASとは?その定義とCPA・ROIとの違い
ROAS(Return on Advertising Spend)の定義と計算方法
ROASは、広告費1円あたり、どれだけの売上が得られたかを示す指標です。売上金額を広告費で割って100を掛けることで算出されます。
ROAS(%) = 広告経由の売上 ÷ 広告費用 × 100
例えば、
- 広告費用:10万円
- 広告経由の売上:50万円 の場合、
- ROAS = 50万円 ÷ 10万円 × 100 = 500%
この「500%」という数値は、「1円の広告費で5円の売上を獲得できた」ことを意味します。この数値が高いほど、広告の費用対効果が良いと判断できます。
ROASとCPA、ROIとの違いを明確に理解する
広告効果を測る指標はROAS以外にも多数存在します。特に混同されがちなのが、CPAとROIです。
指標名 | ROAS(広告費用対効果) | CPA(顧客獲得単価) | ROI(投資収益率) |
計算式 | 売上 ÷ 広告費 × 100 | 広告費 ÷ コンバージョン数 | 利益 ÷ 投資額 × 100 |
示しているもの | 広告費1円あたりの売上 | 顧客1人獲得にかかるコスト | 投資全体に対する利益 |
主な用途 | 広告の費用対効果を評価 | 顧客獲得単価の妥当性を評価 | 広告を含む事業全体の収益性を評価 |
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- ROASは「売上」に焦点を当てるため、広告そのものの効果を測るのに適しています。
- CPAは「顧客獲得コスト」に焦点を当てるため、CPAが低ければ低いほど良いとされます。
- ROIは「利益」に焦点を当てるため、広告費だけでなく、人件費やシステム費などを含めた事業全体の収益性を評価する際に使われます。
これらの指標はそれぞれ異なる視点を持つため、ROASだけでなく、CPAやROIも合わせて確認することで、より多角的に広告の効果を分析できます。
2. ROASの目安と目標ROASの設定方法
ROASの目標値は、業種やビジネスモデルによって大きく異なります。一般的に「何%なら良い」という明確な基準はありませんが、一つの目安として**「ROASが100%を下回ると赤字」**と考えられます。
- ROASが100%: 広告費と売上が同額であり、トントン。
- ROASが100%未満: 広告費が売上を上回っており、赤字。
- ROASが100%超: 広告費を上回る売上が出ており、黒字。
ただし、ROASが100%を超えていても、商品原価や人件費などの経費を考慮すると、必ずしも利益が出ているとは限りません。
損益分岐点ROAS(目標ROAS)の設定方法
広告活動で確実に利益を出すためには、損益分岐点ROASを把握することが不可欠です。損益分岐点ROASとは、利益がゼロになるROASの最低ラインを指します。
損益分岐点ROAS(%) = 100 ÷ 売上総利益率 × 100
- 売上総利益率(%) = (売上 – 売上原価) ÷ 売上 × 100
例えば、
- 1つの商品の売価:10,000円
- 商品の原価:4,000円 の場合、
- 売上総利益率 = (10,000 – 4,000) ÷ 10,000 × 100 = 60%
- 損益分岐点ROAS = 100 ÷ 60% × 100 = 166.7%
この計算式から、この商品で利益を出すためには、最低でもROASが166.7%を超える必要があることがわかります。
広告を運用する際は、この損益分岐点ROASを基準に、**「ROASが〇%以上であれば広告を継続する」**といった明確な判断基準を持つことが重要です。
3. ROASを改善するための5つの実践施策
ROASは、広告の売上と費用という2つの要素から構成されています。したがって、ROASを改善するには、**「売上を増やす」か「広告費を減らす」**のいずれか、もしくは両方のアプローチが必要です。
施策1:広告クリエイティブを改善してクリック率(CTR)を上げる
広告のクリック率が上がれば、同じ広告費でもより多くのユーザーをサイトに誘導でき、売上につながる可能性が高まります。
- 実践方法:
- ABテスト: 複数の広告文や画像、動画クリエイティブを用意し、クリック率が高いものを特定します。
- 訴求軸の変更: 「価格訴求」だけでなく、「品質訴求」「限定性訴求」など、さまざまな切り口で広告を作成してみましょう。
- キャッチーなコピー: ユーザーの目を引く、魅力的な言葉や問いかけを使いましょう。
施策2:Webサイトを改善してコンバージョン率(CVR)を上げる
広告からサイトに流入したユーザーが、商品を購入したり、サービスに申し込んだりする割合(コンバージョン率)を高めることは、ROAS改善に直結します。
- 実践方法:
- ランディングページ(LP)の最適化: 広告とLPの内容に一貫性を持たせる、ユーザーのベネフィットを明確にする、CTA(行動喚起)ボタンを分かりやすくするなど、LPの改善を行います。
- 入力フォームの簡略化: 入力項目を減らす、入力補助機能を付けるなどして、ユーザーの離脱を防ぎます。
- 決済フローの見直し: 決済手段を増やす、購入までのステップを減らすなど、スムーズに購入が完了できる導線設計を行います。
施策3:ターゲティングを最適化する
広告を配信する対象を絞り込むことで、より購買意欲の高いユーザーにリーチし、無駄な広告費を削減できます。
- 実践方法:
- オーディエンスの絞り込み: 年齢、性別、興味関心、地域だけでなく、過去にサイトを訪問したユーザー(リターゲティング)や類似ユーザーなど、精度の高いターゲティングを行います。
- 広告媒体の選定: ターゲット層が最も利用する媒体(SNS、検索エンジン、特定のWebサイトなど)に、広告予算を集中させます。
施策4:キーワードや配信面を精査する
リスティング広告の場合、コンバージョンにつながりやすいキーワードに予算を集中させ、そうでないキーワードの入札単価を下げることで、ROASを改善できます。
- 実践方法:
- キーワードの分析: どのキーワードが最もコンバージョンにつながっているかを分析します。
- ネガティブキーワードの追加: 自社の商品やサービスと関連性の低いキーワード(「無料」「使い方」など、購入意欲が低いと判断されるもの)を除外キーワードとして設定し、無駄なクリックを減らします。
施策5:広告予算を最適化する
パフォーマンスの良い広告キャンペーンや広告セットに予算を集中させ、ROASが低いものは予算を減らす、または停止することで、全体の費用対効果を高めます。
- 実践方法:
- 日々のモニタリング: 広告のパフォーマンスを毎日確認し、ROASが目標値を下回っているキャンペーンを早期に発見します。
- 入札戦略の見直し: 自動入札ツールなどを活用し、目標ROASを達成するための最適な入札単価を自動で調整します。
4. ROASと向き合う上で覚えておきたい注意点
1. 短期的なROASに一喜一憂しない
特に新規顧客を獲得するための広告では、初回の購入ROASが低くなる傾向があります。しかし、その顧客がLTV(顧客生涯価値)の高い優良顧客になる可能性があります。短期的ROASだけでなく、LTVや顧客維持率も考慮した上で、広告の価値を総合的に判断することが重要です。
2. ROASの算出期間を明確にする
ROASを計算する際は、どの期間の売上と広告費を使うかを明確にしましょう。**「広告クリックから〇日以内の売上」**といったように、計測期間を設定しないと、正確な効果を測定できません。
3. ROASはあくまでも「売上」指標
ROASは「売上」に対する指標であり、「利益」を直接示すものではありません。先述の通り、広告費を上回る売上があったとしても、原価や経費を差し引くと赤字になることもあります。最終的な事業の健全性を判断するためには、ROIや利益率といった指標も必ず確認しましょう。
データに基づいた広告運用で、ビジネスの成長を加速させる
ROASは、広告の成果を客観的に評価し、次の施策を決定するための強力な羅針盤です。ROASを正しく理解し、データに基づいた改善を継続的に行うことで、広告費用を単なる「コスト」ではなく、「売上を生み出すための投資」に変えることができます。
しかし、「広告の運用や分析に手が回らない」「ROASをどう改善すればいいかわからない」と悩んでいる方もいるかもしれません。
株式会社MIPは、ROASをはじめとする重要指標の分析から、広告戦略の立案、実行、改善まで、お客様のマーケティング活動をトータルでサポートします。