AIDMAとは?基本を再確認し「なぜ今も重要なのか」を理解する
「AIDMA(アイドマ)」モデルは、1920年代にアメリカのサミュエル・ローランド・ホールによって提唱された、消費者の購買行動プロセスを説明する古典的なフレームワークです。
デジタル技術が浸透し、購買行動が多様化した現代においても、AIDMAが持つ「人の心理的な変化を捉える」という本質的な力は失われていません。むしろ、新たな購買行動モデルを理解するための土台として、その重要性は再認識されています。
AIDMAモデルの5つのフェーズとそれぞれの役割
AIDMAは、消費者が商品やサービスを認知してから購買に至るまでの心理と行動の5つのステップの頭文字を取っています。
フェーズ | 心理・行動 | 役割(マーケティング施策の目的) |
Attention (注意) | 存在を知る | ターゲットに認知させる(広告、PRなど) |
Interest (興味) | 詳細を知りたい | 関心を惹きつけ、情報を深く見てもらう(コンテンツ、LPなど) |
Desire (欲求) | 欲しいと感じる | 商品が自分に必要だと確信させる(事例、メリット提示) |
Memory (記憶) | 覚えておく | 購買の直前まで記憶に留め、比較検討の候補に残る(リターゲティング、ブランド体験) |
Action (行動) | 実際に購入する | 購買行動を促す(限定性、手軽な購入導線) |
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このモデルの重要な点は、態度変容(AttentionからDesireまで)と行動変容(Action)の二つの側面で捉えていることです。特に、AttentionとInterestは認知段階、DesireとMemoryは感情・検討段階、Actionは購買段階と整理することで、各フェーズで必要な施策が明確になります。
AIDMAが生まれた背景と現代の購買行動の変化
AIDMAが提唱された20世紀初頭は、テレビや新聞、ラジオといった「マスメディア」が情報伝達の中心でした。企業からの一方的な情報発信(広告)が消費者の注意を引き、購買へと誘導する構造が主でした。この時代においては、特に「Memory(記憶)」が重要であり、繰り返し広告を見ることでブランドが記憶に残り、行動を促していました。
しかし、インターネットとソーシャルメディアの浸透により、消費者は情報を「受け取る」だけでなく、「検索し、共有し、評価する」ようになりました。
この変化に対応するために、AISAS(SearchとShareの追加)やAMTUL(TrialとUsageの追加)といった新しいモデルが提唱されましたが、AIDMAが持つ「認知→関心→欲求→行動」という感情の流れは、いかなる時代においても人間の購買心理の根幹をなしているため、現代においてもマーケティング戦略の基礎として機能し続けるのです。
デジタル時代に「アップデートされた」AIDMAモデルの活用事例
AIDMAは古いのではなく、デジタル時代に合わせてその解釈と施策をアップデートすることで、より強力なフレームワークになります。ここでは、各フェーズにおける具体的なデジタルマーケティングの活用法を見ていきましょう。
【Attention】認知獲得:SNS広告・動画戦略の重要性
現代における「Attention」の獲得は、単に広告を出すこと以上の意味を持ちます。それは、「ターゲットが最も時間を費やしている場所」で、ノイズを上回る価値ある情報を提供することです。
- 動画コンテンツの活用:
- YouTubeやTikTokなどのプラットフォームで、単なる商品説明ではなく、「課題解決のヒント」や「共感を呼ぶストーリー」を短尺で発信します。
- 従来のテレビCMのような「一方的な注意喚起」から、「ユーザーが見たいと思うコンテンツ」による注意喚起へと変化しています。
- SNSのオーディエンスターゲティング:
- InstagramやFacebookの広告では、年齢・性別だけでなく「興味関心」や「過去の行動」に基づいた詳細なターゲティングが可能です。
- これにより、膨大な情報の中から、本当にその情報が必要なユーザーに的確に「Attention」を与えることができます。
【Interest & Desire】興味・欲求:パーソナライズとコンテンツマーケティング
Attentionで獲得した関心を「Interest(興味)」から「Desire(欲求)」へと昇華させるためには、ユーザーに合わせた情報の提供が不可欠です。
- パーソナライズされた体験の提供:
- マーケティングオートメーション(MA)ツールを活用し、Webサイトでの閲覧履歴やメールの開封状況に応じて、提供するコンテンツを変化させます。
- 例えば、製品Aのページをよく見ているユーザーには、製品Aの具体的な導入事例や競合比較資料をメールで送り、より強い「Desire」を引き出す施策を行います。
- 質の高いコンテンツの設計:
- 単に製品のスペックを並べるのではなく、「ユーザーの悩み」を深掘りし、その解決策として自社製品を位置づける「コンテンツマーケティング」が中心となります。
- ハウツー記事、専門家へのインタビュー、eBookなど、多角的なコンテンツで、興味を維持しつつ「これが欲しい」という欲求を醸成します。
【Memory & Action】記憶・行動:リターゲティングとUGCの活用
現代の購買行動において、「Memory(記憶)」は非常に重要です。なぜなら、多くの人は一度の接触で購買決定をしないからです。
- リターゲティング広告の徹底:
- Webサイトを訪問したものの購入に至らなかったユーザーに対し、関連性の高い広告を再度表示することで、記憶を呼び起こし、購入を検討している状態を維持させます。
- 特に、かご落ち(カートに商品を入れたまま離脱)したユーザーへのメールや広告は、購買意欲が最も高いため、「Action」への強い後押しになります。
- UGC(ユーザー生成コンテンツ)の活用:
- 「Memory」と「Action」の間を埋める決定的な要因が「信頼性」です。現代の消費者は、企業発信の情報より、他のユーザーの評価を信頼します。
- レビュー、SNSでの言及、口コミなどのUGCをWebサイトや広告で活用し、安心感を与えることで、「Action」をためらう心理的な障壁を取り除きます。
【実践】BtoBマーケティングにおけるAIDMAの適用と成功の鍵
BtoB(企業間取引)マーケティングは、BtoC(消費者向け取引)と比べて検討期間が長く、関与者も多岐にわたるため、AIDMAの各フェーズをより戦略的に適用する必要があります。
BtoB特有の購買プロセスとAIDMAの段階的適用
BtoBでは、「Action(購買)」に至る前に、**「資料請求」「無料トライアル」「営業との商談」**といった複数の小さな行動(マイクロ・アクション)が存在します。
AIDMAフェーズ | BtoBにおける主なアクションと目的 |
Attention | 業界の課題解決に役立つウェビナーや調査レポートによる認知獲得。 |
Interest | 専門性の高いホワイトペーパー、導入事例集のダウンロード。 |
Desire | 競合比較資料、個別デモによる具体的メリットの訴求。 |
Memory | 担当者の名刺情報をもとにしたナーチャリングメールやリターゲティングによる接触維持。 |
Action | 正式な見積もり依頼、契約。 |
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BtoBでは、特に「Interest」から「Desire」への移行、そして長期にわたる「Memory」の維持が重要です。顧客が検討フェーズに入った後も、継続的に信頼感と専門性を訴求し続けるリードナーチャリングが成功の鍵を握ります。
信頼性と実績が記憶(Memory)を強化する事例
BtoBにおける「Memory(記憶)」とは、「課題を解決できる信頼できるパートナー」としての印象を組織全体に留めておくことです。この信頼性こそが、長い検討期間を経て最終的な「Action」を決定づけます。
経済産業省が定期的に公表するDX(デジタルトランスフォーメーション)レポートや、**IPA(情報処理推進機構)**のセキュリティ関連の指針などは、BtoB企業が自社のソリューションの信頼性と必要性を訴求する上で重要な根拠となります。
例えば、セキュリティ関連のソリューションを提供する企業が、製品のメリットを語るだけでなく、「経済産業省の『サイバーセキュリティ経営ガイドライン』に準拠した設計である」という公的機関の情報を根拠として示し、それをコンテンツ内で繰り返し訴求することで、顧客の記憶に「安心できる選択肢」として定着させます。
具体的な情報ソース:
- 情報元URL(例):
https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/mng_guide.html
(経済産業省 サイバーセキュリティ経営ガイドライン)- 根拠の提示: ガイドラインに基づいたリスクへの対応実績やセキュリティ認証の取得状況を示すことで、意思決定層に「信頼できる」という強い記憶(Memory)を植え付けます。
AIDMAの進化系モデルとの違いと使い分け(AISAS/AMTULなど)
AIDMAは普遍的なモデルですが、デジタル時代にはその変化を捉えるための派生モデルも存在します。これらのモデルは「どれか一つが優れている」というものではなく、商材や目的によって使い分けることが、優秀なマーケターには求められます。
1. AISAS(Attention, Interest, Search, Action, Share)
- 違い: AIDMAの「Desire」「Memory」を省略し、「Search(検索)」と「Share(共有)」を追加。
- 使い分け: ECサイトや一般消費者向けの商品など、「検索」が購買行動に強く関与し、口コミ(Share)が重要な影響力を持つ商材に適しています。SEOやSNSマーケティングを重視する場合に有効です。
2. AMTUL(Awareness, Memory, Trial, Usage, Loyalty)
- 違い: AIDMAの「Action」を「Trial(試用)」と「Usage(利用)」に分解し、最終的な目標として「Loyalty(ロイヤルティ)」を置いています。
- 使い分け: SaaS(サブスクリプション型サービス)や化粧品など、「お試し」期間があり、継続利用(リピート)が収益の鍵を握るビジネスに適しています。「トライアル」から「本格導入」へ繋げるためのカスタマーサクセスが重要になります。
AIDMAが「軸」となる理由
これらの進化系モデルも、すべて**「認知(Attention/Awareness)」から始まる**という点ではAIDMAと共通しています。
AIDMAは、消費者の心理の流れという最も普遍的で根源的な部分を捉えているため、どのモデルを採用するにせよ、まずはAIDMAの5つのフェーズで「今、顧客はどの段階にいるか」「次の段階に進むために必要な情報や動機は何か」を考えることが、戦略立案の揺るがない軸となるのです。
まとめ:AIDMAの本質を理解し、成果に繋げるために
「AIDMAは古い」という言説は、デジタル時代においてそのモデルが静的であると誤解されていることに起因します。
本質的にAIDMAは、消費者の「心に火をつける」ためのロードマップです。
デジタル時代のマーケターが成果を出すために必要なことは、単に新しいモデルに飛びつくことではなく、AIDMAの各フェーズが現代のデジタル環境でどのような「行動」や「接点」に置き換わるのかを深く理解し、施策に落とし込むことです。
AIDMAの再定義と実践のポイント
- Attention: ターゲットの居場所(SNS、検索結果、動画プラットフォーム)で、ノイズを上回る価値あるコンテンツを提供する。
- Interest & Desire: MAツールやコンテンツで、パーソナライズされた情報を提供し、興味から欲求への橋渡しを確実に行う。
- Memory: リターゲティングや公的機関のデータに基づく信頼性・根拠の提示で、検討期間中も「最良の選択肢」として記憶に留めてもらう。
- Action: 明確なCTA(Call to Action)とシンプルな購買導線で、心理的な障壁を取り除く。
AIDMAの本質を深く理解し、貴社のビジネスに合わせた現代的な解釈とデジタル施策を組み合わせることで、複雑化した現代の購買行動においても、確かな成果を生み出すことができます。
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