「顧客ジャーニーマップ」とは、顧客が商品やサービスを認知し、購入し、そしてリピーターになるまでの一連のプロセスを「旅」に例えて、その行動や感情、思考などを時系列で可視化したものです。
このマップを作成することで、企業は顧客の視点に立って、それぞれの段階でどのような課題やニーズがあるのかを深く理解することができます。これにより、より効果的なマーケティング施策やサービスの改善に繋げることが可能になります。
1. 顧客ジャーニーマップを作成する目的とメリット
顧客ジャーニーマップを作成する主な目的は、**「顧客理解の深化」と「部門間の共通認識の確立」**です。これにより、以下のようなメリットが得られます。
- 顧客の行動や感情を俯瞰できる: 顧客がどの接点(タッチポイント)でどのような感情を抱き、どう行動するかを可視化することで、これまで気づかなかった課題や改善点を発見できます。
- 組織全体で顧客像を共有できる: マーケティング、営業、カスタマーサポートなど、部門を横断して共通の顧客像と課題を共有できます。これにより、各部署がバラバラに動くことなく、一貫した顧客体験を提供するための連携がスムーズになります。
- 施策の優先順位が明確になる: 顧客の不満や課題が最も大きいフェーズを特定し、そこにリソースを集中させることで、効率的に成果を上げることができます。
- 顧客満足度とロイヤリティの向上: 顧客の心理を理解することで、期待に応えるサービスや情報を提供できるようになり、結果として顧客満足度やリピート率の向上に繋がります。
2. 顧客ジャーニーマップの作り方:5つのステップ
効果的な顧客ジャーニーマップを作成するには、以下のステップで進めるのが一般的です。
ステップ1:目的とゴールの設定
「なぜこのマップを作るのか?」という目的を明確にしましょう。
- 例: 「新規顧客獲得率を向上させたい」「既存顧客の離脱原因を特定したい」
目的に応じて、マップの範囲(例:認知から購入まで、購入からリピートまで)や、分析対象とする顧客層(ペルソナ)を決めます。
ステップ2:ペルソナの作成
「特定の典型的な顧客像」である「ペルソナ」を設定します。年齢、性別、職業、趣味、価値観、日々の行動パターンなど、まるで実在する人物かのように詳細に設定することで、顧客の気持ちをより深く想像できます。
ステップ3:顧客のフェーズ(時系列)を設定
顧客が商品やサービスを認知してから購入・利用するまでのプロセスを、時系列で区切ります。
- 例: 「認知」→「情報収集」→「比較検討」→「購入」→「利用・共有」
ステップ4:顧客の行動・思考・感情を書き出す
それぞれのフェーズにおいて、ペルソナがどのような行動を取り、何を考え、どのような感情を抱いているかを具体的に書き出します。このとき、顧客アンケートやインタビュー、アクセス解析データなどを活用すると、より現実に基づいたマップになります。
ステップ5:課題と施策を洗い出す
マップに書き出した内容から、各フェーズでの「顧客の課題(ペインポイント)」や「企業の機会(チャンス)」を特定します。そして、その課題を解決するための具体的な施策を検討し、マップに落とし込みます。
3. 顧客ジャーニーマップの成功事例
事例1:スターバックス
スターバックスは、顧客ジャーニーマップを活用して、店舗での顧客体験を向上させました。
- 課題: レジの行列や支払いに時間がかかり、顧客がストレスを感じている。
- 行動分析: 顧客は、店舗に到着する前から、注文や支払いをスムーズに済ませたいと考えている。
- 施策: 事前にモバイルアプリで注文と支払いを完了できる「Mobile Order & Pay」を導入。これにより、顧客は店舗に到着後、すぐに商品を受け取れるようになり、不満を解消しました。
事例2:日本政府観光局(JNTO)
JNTOは、訪日外国人旅行者の顧客ジャーニーマップを作成し、日本の観光情報提供を最適化しました。
- 課題: 旅行計画、情報収集、帰国後まで、各フェーズで訪日外国人が抱える課題が把握できていなかった。
- 行動分析: 目的地や宿泊先、交通手段の検索など、旅行の各段階で多岐にわたるニーズがあることを把握。
- 施策: 顧客が知りたい情報を最適なタイミングで提供できるよう、Webサイトの改善や多言語での情報発信を強化しました。これにより、訪日外国人旅行者の満足度向上に貢献しました。
4. まとめ:顧客視点のビジネス構築に不可欠なツール
顧客ジャーニーマップは、単なる図表ではなく、顧客視点でのビジネス構築を可能にするための重要なツールです。このマップを作成・活用することで、企業は顧客の潜在的なニーズや課題を深く理解し、それに基づいた効果的な戦略を立てることができます。
このツールを組織全体で共有し、継続的にアップデートしていくことで、顧客満足度の向上とビジネスの持続的な成長を実現することができるでしょう。