「STP分析」という言葉は知っているものの、いざ自分の事業にどう活かせばいいか分からない…そう思っていませんか?
STP分析は、マーケティング戦略を立てる上で欠かせない強力なフレームワークです。しかし、ただ用語を知っているだけでは意味がありません。間違った使い方をすると、かえって事業の方向性を見失ってしまうこともあります。
この記事では、STP分析の基本から、事業の成功に直結する具体的な実践方法、そして多くの企業が陥りがちな失敗パターンとその対策までを徹底解説します。
この記事を読めば、あなたは以下のことがわかるようになります。
- STP分析がなぜ重要なのか
- 誰でもすぐに始められるSTP分析の具体的なやり方
- 企業事例から学ぶ、STP分析の成功パターン
- 効果を最大化するための5つの実践的なコツ
あなたの事業を次のステージへと押し上げるために、STP分析を強力な武器として使いこなす方法を一緒に学んでいきましょう。
STP分析とは?「誰に何をどうやって届けるか」を明確にするフレームワーク
STP分析とは、マーケティング戦略の大家であるフィリップ・コトラーが提唱したフレームワークです。
**Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)**という3つの頭文字を取ったもので、市場を細分化し、狙うべき顧客を定め、自社の立ち位置を明確にするための思考プロセスを体系化したものです。
STP分析の目的は、自社の強みを活かせる「独自の市場」を見つけ出し、そこに経営資源を集中投下することにあります。
なぜSTP分析が重要なのか?
現代の市場は、かつてないほど多様化し、競合も増えています。「万人受けする商品」を作ろうとしても、多くの場合「誰にも刺さらない商品」になってしまいます。
STP分析を行うことで、以下のようなメリットが得られます。
- 顧客のニーズを深く理解できる:漠然とした「市場」ではなく、特定の顧客グループ(セグメント)に焦点を当てることで、彼らが本当に求めているものは何かが見えてきます。
- 自社の強みを明確にできる:競合他社との比較を通じて、自社のサービスや製品が持つ「独自の価値」を客観的に把握できます。
- 効率的な経営資源の配分ができる:どこにリソースを集中すべきかが明確になるため、無駄な投資を避け、高い費用対効果を狙えます。
要するに、STP分析は、自社のビジネスが「どの土俵で、どんなルールで戦うべきか」を定義するために不可欠なツールなのです。
誰でもできる!STP分析の具体的な3つのステップ
STP分析は、通常以下の3つのステップで進めます。
- S:Segmentation(セグメンテーション):市場を細分化する
- T:Targeting(ターゲティング):狙うべき市場を決定する
- P:Positioning(ポジショニング):自社の立ち位置を確立する
これらのステップは、必ずしもこの順番で進める必要はありません。分析しやすい部分から着手し、何度も行き来しながら精度を高めていくのが効果的です。
1. Segmentation(セグメンテーション):市場を細分化する
最初のステップは、市場を特定の属性で細かく分類することです。同じニーズや特性を持つ顧客をグループ化することで、全体の市場像を把握します。
セグメンテーションで使われる主な変数(分類軸)は以下の4つです。
- 地理的変数(ジオグラフィック)
- 国、地域、都市の規模、気候、文化など。
- 例:「首都圏の単身世帯」「積雪地域の家庭」
- 人口動態変数(デモグラフィック)
- 年齢、性別、家族構成、所得、職業、学歴など。
- 例:「30代の共働き夫婦」「年収1,000万円以上の経営者」
- 心理的変数(サイコグラフィック)
- ライフスタイル、価値観、興味・関心、パーソナリティなど。
- 例:「健康志向の強い人」「環境問題に関心がある人」
- 行動変数(ビヘイビアル)
- 購買履歴、使用頻度、製品の知識、購買の動機など。
- 例:「週に3回以上コンビニを利用する人」「セール時にしか購入しない人」
これらの変数を組み合わせることで、より具体的な顧客像を描き出すことができます。例えば、「都心に住む、健康志向の30代共働き夫婦」といった形です。
失敗しないためのコツ:セグメントは「顧客ニーズ」で考える
多くの企業が陥りがちな失敗は、単なる属性でセグメントを分けてしまうことです。重要なのは、その属性を持つ顧客のニーズがどう異なるかを考えることです。
「30代女性」というセグメントは広すぎます。しかし、「キャリアアップを目指し、自分の時間を大切にする30代女性」と定義すれば、そのニーズは「仕事と家事を両立させる時短アイテム」や「自己投資につながるセミナー」など、具体的なものが見えてきます。
2. Targeting(ターゲティング):狙うべき市場を決定する
細分化したセグメントの中から、自社のリソースや強みを最大限に活かせる市場を選びます。
ターゲティングには、主に以下の3つのアプローチがあります。
- 無差別型マーケティング
- セグメントの違いを無視し、単一の製品・サービスで市場全体にアプローチする手法。
- 例:国民的な日用品、コモディティ商品など。
- 差別型マーケティング
- 複数のセグメントに対し、それぞれに合わせた製品・サービスを提供する手法。
- 例:ユニクロの「メンズ」「ウィメンズ」「キッズ」向け商品展開など。
- 集中型マーケティング
- 特定の1つのセグメントに経営資源を集中投下する手法。
- 例:高級ブランド、ニッチな専門サービスなど。
多くの企業が目指すべきは「差別型」または「集中型」です。とくに、リソースが限られる中小企業やスタートアップは、「集中型」で特定の市場を深掘りすることで、大手にはない独自の地位を築きやすくなります。
失敗しないためのコツ:セグメントの「魅力度」を評価する
選定するセグメントは、以下の4つのR(4R)で評価すると失敗を防げます。
- Rank(優先順位):そのセグメントは収益性が高いか?
- Realistic(有効規模):十分に収益が見込める市場規模があるか?
- Reach(到達可能性):そのセグメントに効率的にアプローチできるか?
- Response(測定可能性):マーケティング施策の効果を測定できるか?
特に重要なのは「Realistic(有効規模)」です。市場規模が小さすぎると、どれだけ独占できても十分な売上が立ちません。公的機関(総務省統計局など)や民間調査会社のデータを活用して、客観的に市場の大きさを評価しましょう。
3. Positioning(ポジショニング):自社の立ち位置を確立する
最後に、選定したターゲット市場の中で、競合他社と比べて「自社がどのような独自の価値を提供できるか」を明確にします。
このステップで役立つのがポジショニングマップです。
ポジショニングマップは、顧客が商品を選ぶ際に重要視する2つの軸を設定し、その座標上に自社と競合の位置をマッピングすることで、自社の独自の立ち位置を視覚的に把握するツールです。
例えば、コーヒーショップの市場を例に見てみましょう。
高価格 | 低価格 | |
高品質・専門性 | スターバックス、タリーズなど | |
手軽さ・利便性 | ドトール、コンビニコーヒーなど |
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このマップから、例えば「高品質・専門性」と「低価格」を両立したポジションは空白であることが分かります。もしここに参入できるなら、それは独自のポジショニングとなります。
失敗しないためのコツ:ポジショニング軸は「顧客のKBF」で決める
ポジショニングマップの軸は、単に「価格」と「品質」のような一般的なものだけでなく、**顧客が購買を決める際の最も重要な要因(KBF:Key Buying Factor)**を軸に設定することが重要です。
例えば、住宅市場であれば「価格 vs 広さ」だけでなく、「立地 vs 周辺環境の利便性」や「デザイン性 vs 耐震性」など、顧客のKBFは多岐にわたります。ターゲット顧客のインサイトを深く理解することで、より本質的なポジショニングマップを作成できます。
企業事例に学ぶ!STP分析の成功パターン
STP分析を実践する際のヒントとして、誰もが知る有名企業の成功事例を見ていきましょう。
成功事例1:ユニクロ(株式会社ファーストリテイリング)
ファーストリテイリングは、STP分析を効果的に活用してグローバル企業へと成長しました。
分析項目 | 実施内容 |
Segmentation | ・地理的:日本、アジア、欧米など<br>・人口動態:老若男女、ファミリー層など幅広い<br>・心理的:トレンドより実用性、ベーシックな服を好む層<br>・行動変数:日常着として頻繁に購入する層 |
Targeting | 無差別型に近い「マスマーケティング」。<br>老若男女、誰でも着られる「究極の普段着」をターゲットに。 |
Positioning | 「高品質・機能性」 × 「低価格」<br>ファッション性を重視するブランドとは一線を画し、日常着として誰もが手に取りやすい立ち位置を確立。 |
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【成功のポイント】
ユニクロは、従来のファッション業界が「トレンド」や「デザイン性」を重視していた中で、あえて「高品質な普段着を低価格で提供する」という独自のポジションを確立しました。特定のトレンドを追うのではなく、ヒートテックやエアリズムのような機能性素材を開発し、老若男女問わず、日常のあらゆるシーンで使えるベーシックな服を提供することで、圧倒的な支持を得ています。
この戦略は、アパレル業界の常識を覆し、ファッションを「ライフウェア(LifeWear)」という新たなカテゴリーへと昇華させました。
成功事例2:横浜DeNAベイスターズ
プロ野球球団「横浜DeNAベイスターズ」は、STP分析を応用したマーケティング戦略で、低迷期から観客動員数V字回復を果たした成功事例として知られています。
参照元:横浜DeNAベイスターズ 公式ウェブサイト、スポーツ報知など
分析項目 | 実施内容 |
Segmentation | ・地理的:横浜市、神奈川県全域<br>・心理的:ライト層、ファミリー層、女性など |
Targeting | これまでの「コアな野球ファン」に加え、「野球にあまり興味がない、ライト層のファン」を新規ターゲットに設定。 |
Positioning | 「野球観戦」ではなく「エンターテインメントとしての野球体験」<br>球場を「非日常を楽しむ空間」と再定義し、様々なイベントやグルメ、グッズを展開。 |
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【成功のポイント】
ベイスターズは、野球そのものの魅力だけでなく、「球場に足を運んで非日常を楽しむ」というエンターテインメント体験に焦点を当てました。
具体的には、野球ファン以外でも楽しめるように、スタジアムに隣接する公園でイベントを開催したり、女性向けグッズやグルメを充実させたりしました。この「野球観戦=エンターテインメント」という独自のポジショニングにより、従来のコアファンに加え、ライト層やファミリー層など、新たな顧客層の獲得に成功しました。結果として、年間観客動員数を大幅に増加させ、事業のV字回復を成し遂げたのです。
STP分析を成功させる5つの実践的なコツ
STP分析を「ただの机上論」で終わらせないために、押さえておくべき5つのコツを紹介します。
1. データと顧客インサイトを重視する
「なんとなく」の勘や経験だけでSTP分析を進めると、現実と乖離した結果になりがちです。
- データ:公的統計データ、業界レポート、自社の顧客データなどを活用し、客観的な事実に基づいて分析しましょう。
- 顧客インサイト:アンケートやインタビュー、SNSでの声などから、顧客の潜在的なニーズや行動の背景を深く掘り下げることが重要です。
2. PEST分析や3C分析と組み合わせる
STP分析は、単体で行うよりも他のフレームワークと組み合わせることで、より効果を発揮します。
- PEST分析:外部環境(政治・経済・社会・技術)を分析することで、市場全体の変化を把握し、将来性のあるセグメントを見つけやすくなります。
- 3C分析:自社(Company)、競合(Competitor)、顧客(Customer)の3つの視点から市場環境を分析し、STP分析の精度を高めることができます。
3. 「STP」の順番にこだわりすぎない
STP分析は「S→T→P」の順番で進めるのが一般的ですが、必ずしもこの通りである必要はありません。
例えば、ポジショニングマップを作成してみて、空白地帯を見つけた後で、そこにフィットするターゲットセグメントを探す、というアプローチも有効です。柔軟に思考を巡らせることで、革新的なアイデアが生まれることもあります。
4. 実行可能性(実現性)を常に意識する
どんなに素晴らしい分析結果が出ても、それを実行できなければ意味がありません。
- リソース:そのターゲット層にアプローチするだけの資金や人材は足りているか?
- 組織体制:その戦略を実行するための組織体制は構築できるか?
- 技術・ノウハウ:そのポジショニングを維持できるだけの技術やノウハウはあるか?
分析段階から、これらの「実現性」を常に念頭に置いておくことが大切です。
5. 定期的に見直す
市場や顧客のニーズは常に変化しています。一度STP分析を行って終わりではありません。
例えば、競合の新たな参入や、技術革新によって、これまでのポジショニングが通用しなくなることもあります。年に1回、あるいは大きな環境変化があった際には、必ずSTP分析を見直し、戦略をアップデートしましょう。
まとめ:STP分析で「勝てる市場」を見つけ出そう
STP分析は、現代の複雑な市場で事業を成功に導くための羅針盤です。
- S(Segmentation):市場を顧客ニーズで細分化する
- T(Targeting):自社の強みが活かせる市場を定める
- P(Positioning):競合にはない独自の立ち位置を確立する
この3つのステップを体系的に行うことで、漠然としたマーケティングではなく、自社が「どこで、誰と、どう戦うか」という明確な戦略を立てることができます。
STP分析を正しく理解し、他のフレームワークと組み合わせながら実践することで、あなたの事業は間違いなく次のステージに進むことができるでしょう。
もし、STP分析の具体的な進め方や、自社の強みを活かした戦略の立案でお困りでしたら、ぜひ一度ご相談ください。貴社のビジネスの成長を強力にサポートいたします。